空港難民

西安。
前日の雨は翌日雪へと変わった。

気温−8℃。
サラサラの雪は細かく水を含んでいない為、すぐに積もり始めた。

「大丈夫、上海から乗る予定の飛行機は遅れているけど向かってきてるよ。」

たどたどしい日本語の中国人通訳、マーさんの言葉に少し安心する。
でも心は裏腹にこんな天気で本当に帰れるのかと疑っていた。

ただでさえ毎日晴れていても空は曇り空のようにうす暗く、大気汚染でかすんだ景色は遠くが見えない。この一週間、一度たりとも青い空を見る事はなかった。

そんな視界の悪い中でのフライト。
はたして飛行機は飛べるのか。

全く暖房の効かないバスで空港へ。

予感は的中。
荷物の整理をしていると、カウンターへ様子を見に行っていた団長さんが戻って来た。

「みなさん、喜んでください。もう一泊中国ですよ。上海から向かっていた飛行機は引き返しました。」

「えっ...」

団長さんの気を利かせた冗談まじりの真実は全く喜べず嬉しくなかった。
まぁ、空港に着いてこの人混み。

納得ですけどね。


ここから私の35時間は始まった。

14:00過ぎ空港到着

15:00フライト予定が何時になるか分からない為とりあえずチェックインだけ済ませる。

18:00過ぎ空港のレストランで食事。最後の晩餐と言っていたのにまた中国での食事。いったいいつが最後になることか。

18:30上海の飛行機が到着したというので搭乗口で待つ。

20:00搭乗。中にはすでに中国人達がいた。いっこうに雪は降りやまない。

事件1:
待ち続ける機内。アテンダントが水を配り始めた。
機内は暖房でぼーっとするほどの暑さ。

私の隣には同じ旅仲間の50代の女性。
彼女がトイレから戻り、座る時に誤ってシートを倒すボタンを押しながら座ってしまい、突然シートが倒れたため、後ろの中国人女性のテーブルの上に置いてあった水のカップがひっくり返ってしまった。

水で洋服が濡れてしまった中国人女性は立ち上がり怒鳴り始めた。

申し訳ないと思った女性はハンカチを差し伸べ、つたない英語でごめんなさいと言う。

中国人女性はそれをはね除けさらに大きな声で怒鳴る。
そんなたいした事ないやん!謝ってるやんと私は若干にらみながら反抗。

大げさな態度で濡れた洋服をはらい、周りの中国人の同情を得ようとする。
なんて恥ずかしいんだと、ものすごく悪い印象を持った。

22:00滑走路が閉鎖され、フライトがキャンセルされたとアナウンスされる。名古屋行きの乗客だけ降ろされる。


そこから情報は錯綜。翌日フライトはあるのか、ホテルは斡旋してくれるのか、荷物はどうなるのか。

中国語しか話さない空港スタッフは全くあてにならない。
聞いても分からないの一点張り。

空港には飛行機の乗客も含め数千人が足止めされていた。

名古屋行きは私たち11人を含め、中国人2人に70歳を越えた日本人男性が2人に付き添いの中国人通訳が1人。
私のグループも50代60代の方がほとんど。一番若いのは私だけ。
夜もどんどん深まってくる。

これ私がんばらないとだめじゃない?と勝手に危機感を覚えた私はどうにかして情報を得ないとと感じた。

偶然出会ったメキシコ人グループの団体とカナダ在住の中国人達と英語、スペイン語、中国語で情報を交換する。

24:00配給品が配られる。


01:00何も分からないまま、疲れもピーク。

周りがざわめきだす。
空港スタッフの周りに人が群がっている。

「飛行場は通常3時で閉鎖です。みなさん飛行場から出て行ってください。暖房も全て切られます。」

「はっ?」

何言ってんの、この人?
翌日の便のチケットはどうなるの?翌日の保証もなしに追い出すってどういう事?
しかもこの雪でどこにいくの?
ホテルは斡旋してくれるんじゃないの?

「この辺りのホテルは全て満室です。とにかく飛行場から出てください。」

意味がわからない。
高速道路も全て閉鎖されている。
どこへどう行けというのだ?

要はこういう事だろう。

”この遅延は天候のせいであり、飛行機会社に責任はない”

ばかげている。

それでも飛行場の中にいた人たちは搭乗口から出て行っている。

こんな時間に出て行ったら死んでしまう。

私たちは周りの人たちと話し合い断固として動かない事に決める。
もし追い出しにでもこれば領事館に電話してやる、と。

数分後警備員がやって来た。
残っている人のパスポートを記録すると言い、メモっていった。

これで一応飛行場には残れたが、飛行場は本当に暖房を切った。

...ありえない。

毛布もなく体をとにかく小さくして眠った。

翌朝
6:30目覚め朝食をとる。一杯千円のコーヒー。ここは東京の銀座か?!
未だ情報乏しく何も分からない。

8:00午前10時にフライトできると情報が入る。

10:00搭乗

事件2:
搭乗をすると、おそらく機内で夜を明かした中国人達がいた。私たちは入るなり彼らから罵声を浴びた。何を言っているのかわからないが、怒っている事は分かる。

あまりの言いようだったのだろう。
しびれを切らした通訳が対抗していた。

後でその人に尋ねたら、私たちを待っていたからこんなに遅れたのかって勘違いをしていたようである、と。それ以上は教えてくれなかった。

これが中国国民の日本への思いなのか、もしくはこれが普通なのか、それは分からないが、気分は良くなかった。

12:30上海へフライト
14:30上海到着。なんとか次の便のチケットを取る。
18:15搭乗
19:30翌日の西安便も遅れていたため、乗客を待ち1時間遅れてフライト
22:30名古屋着
23:13最終の電車で岐阜駅へと向かう。
24:30岐阜駅到着
01:00帰宅

本当に帰ってこれて良かった。

しかしこの大雪、ニュースによれば「人工降雪」の可能性があるかもという事。

これが中国なのか。



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