夏の金沢

姉が小学生の頃
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ある男性がタクシーの運転手に岐阜で桜がきれいなところに連れてってくれとお願いし、
彼が着いた先は花がすでに散った後のお寺だった
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桜の下の階段で遊んでいた姉と男性は出会い
以来文通を交わすようになった
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知らない者同士の世代を超えた文通は私たち家族とも繋がり、
いつしか遠く離れた親戚のような気持ちへ
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東京から越した先の金沢へ顔を見に行けたこの夏
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猫背でスタスタ歩く叔父さんは病をしても気は元気そうで
品のある姿は変わらなかった
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東京で精一杯生きていた時に静かに現れて
ジョンレノンとオノヨーコの思い出のある東銀座の樹の花で待ち合わせをして
東京中のギャラリーや昔ながらの渋谷から原宿、六本木の裏通りをたくさん歩いて連れ出してくれた
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夜は舞台も観て体の中の何かが疼いて熱くなった
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これがおじさんと過ごした目まぐるしい程に輝いていた一日
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まるで時の螺旋に乗っていたかのよう
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だから今思い出せるのは断片的な趣のある階段や歩き回ったコンクリートや
古い建物にいくつも入ったお店に抜けていた風や
薄暗く埃っぽいエレベーターに乗った先の窓のないギャラリーや一輪挿しの花が添えられていた壁
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叔父さんの何十年と紡いできた作り手との深い付き合いを
一日で垣間見て右も左もわからない街で暮らしていたわたしには忘れられない一日となった
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“Living with art”
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新しく暮らしはじめた金沢の家は作り手との思い出に溢れた家だった
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美しい暮らしに白山からの透明な風が舞い込む朝
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金沢で訪れた地は自分の認識の枠を超えていく人、建築、店、伝統文化が手の届く辺りにあった
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夏の終わりは鼻の奥がツンとなるような甘酸っぱい想いが虫の響きとともに過ぎていく
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こうやって見て感じて考えを言葉にして見えない未来へ冒険する心を養っていく
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ありがとう
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いつまでも元気でいてくださいね











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